<私流ダイアモンド物語について>

いくつかの宝石の本に『ダイアモンド物語』が載っています。でも、私が目にした本ではあらすじ程度にしか書かれていませんでした。とても有名なお話しなのですが少し残念です。宝石セミナーをする者にとって少々物足らないので私はセミナーでは、私流にアレンジした『ダイアモンド物語』を話しています。

<ダイアモンド物語前編>

15世紀中頃、ベルギーの宝石研磨で有名なある町の物語です。その町に一人の青年が住んでいました。彼もまたこの町で修行をしている宝石研磨職人の一人です。彼の家は貧しく、幼い頃から今の親方に預けられ苦労はしましたが、今では町のみんなが認める一人前の研磨職人になっていました。でも、彼には誰にも相談出来ない悩みがひとつありました。それは、親方の美しい一人娘に好意を持っていることでした。内気で話す事が苦手な彼は、どうしてこの気持ちを伝えていいのか想い悩んでいました。そんな日が幾日も幾日もつづいていました。ある日のこと、親方の下に高度な技術が必要な仕事がはいりました。勿論担当は彼に決まりました。その仕事を請けた時、彼は心の内できめました。 「よし、この仕事をなし終えて自分が納得した仕事ができたなら親方に話そう!」
数日後彼はその仕事をりっぱにやり終え、たいそう親方に褒められました。ここぞとばかりに彼は勇気を出して、親方に娘さんとの結婚を申し込みました。うすうす彼の気持ちを感じていた親方でしたが、気の弱い彼が口に出して言わないと思っていたのでびっくりしました。じつはこれまでに何人もの裕福な家庭の若者が娘に求婚したのですが、首を縦にふったことはなく、ましてや貧しく地味なこの若者を娘が気に入る訳も無く、キズつくだけだと親方は、思いました。「断るのは簡単だ。しかし、断ればやめるだろう。う~ん、それは困る。それに肝心の娘はどうだ・・・話しすらしたのを、見たこともない。娘を諦めさせて、彼を辞めさせない何か良い知恵はないものか。」腕組みをしながら親方は考えこんでいました。
ある日、親方は大きくうなずき“そうだ!!この手があった”と妙案を思いつき彼に言いました。
「お前は、自分で一人前と思っている様だが、ワシから見るとまだまだだ!この町一番の腕を持つ者でないと娘はやれない。」
彼は、聞きました。
「じゃ、試してください。親方の言いつけならどんなカットでも、どんな石でも仕上げてみせます。」
「出来なければ娘を諦めるのだな。」
「わかりました。」
「よし!では、これを磨いてみせてくれ。」
親方に石を渡された途端、彼はその石を強く握り締め小刻みにその手が震えはじめました。親方から渡された石は、非常に硬く今まで誰一人として研磨出来なかった石だったからです。その石こそ、ギリシャ語で「征服できないもの」の意味を持つ「アダマス」すなわちダイアモンドでした。
「これで、彼も諦めるだろう」と思い安心していた親方でした。
しかし彼は違いました。
死に物狂いでした。死に物狂いで誰もが無理だと思っている仕事に取り組みました。
無理を承知で取り組みました。ここで諦めてしまえば、自分の愛する気持ちが、偽りだと思ったからです。彼はその日からダイアモンドを削るためにあらゆる創意工夫、考えられる全ての研磨剤を試しました。しかし、ダイアモンドはびくともしません。
ただ無駄な時間だけがそこには流れているかのようでした。悩み苦しみ・・・諦めかけては希望を持ち・・・彼は来る日も来る日も親方に言われた仕事にただひたすら取り組んでいました。彼の事をあまり快く思っていなかった親方の娘でしたが、そんなひたむきな彼をただ黙って見ていることは出来ませんでした。彼の真剣さは自分に対する愛の真剣さ、彼の不器用な愛し方だと感じたからです。娘はいつしか彼のそばにより沿い、彼と同じ試練に取り組んでいました。そのことが、「征服できないもの」の意味を持つダイアモンドを征服できる大事な一歩だとは、まだふたりには知るよしもありませんでした。

<ダイアモンド物語後半へ>
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写真はダイアモンド原石です。その表面には三角形の『トライゴン』が確認できます。物語はこれからクライマックスを迎えます。誰も征服できなかったダイアモンド原石から眩い光を青年は手にすることができるのでしょうか?
愛は通じるのでしょうか?
青年のチャレンジは始まりました。

<ダイアモンド物語後半>

15世紀中頃、ベルギーの宝石研磨で有名なある町の物語です。宝石研磨を修行する一人の若者に試練が訪れました。若者はその時どのように考え何を悟ったのでしょうか?
物語は後半へと続きます。

この日も彼は、悩んでいました。考えられる全てのこと、手に入る全ての研磨剤、ありとあらゆる手を尽くしましたがとうとうダイアモンドを削ることはできませんでした。
「いったい何を使って削ればいいのだ。」彼は、つぶやきました。もう、試す術がない現実に彼はこれ以上希望が持てませんでした。そんな挫折感の中で彼は始めて仕事場を離れました。
「フゥー」彼は、ため息をひとつつきました。
しかし、彼は満足でした。考えられるすべてのことをやり遂げたのだから、例えダイアモンドが削れなくても・・・その瞬間、何かから開放されたように全身の力が抜けるように感じました。
「もう・・・いい・・・もう。」
そう諦めかけたとき、ふと視線をそらすとそこに娘がいました。
毎日毎日そばにいたのに・・・
このとき初めて娘の気持ちに変化があったことに気が付きました。仕事に没頭するあまり自分を取り巻く人々の気持ちの変化にまったく気づかない彼でしたが挫折感とひきかえに大切なものを得ました。娘はもちろん自分でも気が付かないうちに町の人々までもが彼を温かく見守っていたのでした。自分は、こんなにも愛されていたのか・・・
彼は、そう思いました。
それは、彼が今まで経験したことのない感情でした。
「自分は一人じゃない、みんなに支えられて生きている。」
「みんなが自分を育ててくれている。」
そして、そばには娘がいる・・・彼はその時、何か輝くものを感じました。
「そうだ!何故、今まで気がつかなかったのだ!人には人。」
「そして、ダイアモンドにはダイアモンドだ!!」と・・・
彼は娘からも町の人からも愛され支えられました。ダイアモンドを削りそして磨くという仕事を通じて、自分でもわからないうちに、みんなに彼自身が磨かれていたのでした。ダイアモンドが、ダイアモンドで磨かれる様に人は人によって磨かれます。また、その反面ダイアモンドはダイアモンドによって傷つき、人は言葉で傷つきます。傷ついた心は言葉で癒されます。言葉によってキズつき励まされ、磨かれて人は、成長していきます。しかし、もし彼が弱くて脆い人間ならキズついただけかも知しれません。彼もまた光り輝くダイアモンドの原石だったのです。
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「えっ!物語の結末は?」

ダイアモンドはダイアモンドで磨かれ見事に輝きました。その輝きは、彼の放った矢となり娘の心を打ち抜きました。「征服されないもの」を最初に手にした彼の勇気ある行動は、
今でもダイアモンドの中に残っています。
ダイアモンドに光を当てると娘の心(ハート)と彼の勇気(弓矢)が『純粋な恋の勇気』となって輝きます。(写真)ダイアモンドの宝石言葉は、「貞操・純粋・恋の勇気」

自分を磨いてくれる人との出会い・・・
そして、彼が、与えてくれたダイアモンドをいつまでも大切にしたいものです。