<業界現場の取引の様子>
さて、ここで宝石業界の取引を少し覗いてみたいと思います。「1Ct単価」の事を海外では「パ-カラット」、日本では「ガイ」と言います。カイ(買い)が語源という説もありますが、定かではありません。では、ここでまず始めに普通の言葉でダイヤモンドを買う時のセリフを言ってみますと 「このダイヤモンドのカラット単価はいくらですか?」となりますが、業者間のセリフですと 「このダイヤ、ガイいくら?」で済みます。
いいのか悪いのか分かりませんが、これはあくまで日本だけで通用する言葉なのです。 一般の方ならとまどってしまう日本独自の専門用語に、もうひとつ何分何厘というのもあります。
例えば、0.53Ctの場合は5分3厘といいます。
この言葉はあくまでも口語のみに用いる言い方ですので「分」か「歩」かは、私は調べた事はありませんが……。 何故言葉でよく用いるかと言いますと便利だからだと思います。
0,53Ctでしたら喋る時に「レイ テン ゴーサン カラット」と言いますが、 この業界用語を用いますと「ゴブ サン リン」で済み、(しかし、書面の場合「0.53Ct」と書きます。
「分・厘」の方が書きづらいのではと思います。)プロの商談中にはよく耳にします。 しかし、断っておきますがこの言葉は1Ct以下の宝石に対して用いる言葉で決して1Ctの事を10分とは言いません。 好んで用いられている言葉なのです。
最後にもう一つ、しつこい様ですが聞いてください。例えば0.5Ct以上のダイヤモンドを買いたい 場合「アップ」という英語を使う事もしばしばあります。 0.55Ctなら「5分5厘」ですが、だいたい0.5Ct~0.54Ctぐらいまでは全て「5分アップ」と言います。
ここまで理解していただいたならば少し業界の会話を聞いてみましょう。
A「5分アップある?」
B「5分3厘ならあります。」
A「ガイいくら?」
B「100万円」
A「53万か…」
B「1カラアップは?」
A「ガイ200万の1.05Ctがあります。」
B「210万か…」
とまぁこういう具合です。「5分アップ」おもしろいでしょう。
日本語と英語、まさに一見国際的なセリフですが、 世界中でたった一国、日本でしか通用しません。
<カットとは>
「ダイヤモンドは同じ1Ctでもバランスが大切」という事を少し触れました。では、もう少し詳しくお話したいと思います。ダイヤモンドグレーディング「4C」の中で、 バランスとは「カット」の「C」を意味しています。
通常「カット」と言えば2通り意味があり、一つ目はカットされた輪郭(石の形状) そのものを意味するのに用いられます。例えば、ラウンド・ブリリアント・カット とかマーキス・カット等と呼ばれるものがそれにあたります。もう一つは、「メイク」と呼ばれ、 例えばラウンド・ブリリアント・カットでもカットされた各々の面がどの様な角度で、 又はその配列は適正か等を判断する「カット」という意味があります。
もちろん、ダイヤモンドの4C評価においての「カット」は、後者の「カット」すなわち「メイク」を意味します。
<メイクの重要性>
では、何故その「メイク」が評価基準に重要な役割を果たすのでしょうか?
このことを重点的に考えてみたいと思います。ダイヤモンドは、原石では全く光らないただの硬いだけの石ころです。 ルビー・サファイア・エメラルドの様に(特殊なファンシーカラーダイアモンドを除いては) 色そのものを楽しむという事は出来ません。
しかし、一度人間の手にかかり磨きあげたならば他の宝石では決してマネのできない輝きを見せつけます。 言い換えるなら、「光」そのものを楽しむのがダイヤモンドと言えるでしょう。
では、ダイヤモンドのその光の美しさとはどういったものなのでしょうか。 業界では次に上げる3つの美しさを重視しています。
1.ブリリアンシー
石の内部、及び表面から反射して観察者の目に戻ってくる白色光の総量
2.ディスパージョン
白色光がスペクトルカラーに別れ虹色の輝きを放つ事
3.シンチレーション
石、光源、観察者などの動きにつれて見られる外部及び内部からのファセ ット(切り子面)の反射光の煌き
以上述べた美しさが,すべて「メイク」の良し悪しにかかっています。
メイクが良ければ入ってきた光を美しく観察者の目に届け、悪ければ入ってきた光を観察者の目に届けず洩らしてしまいます。言い換えるなら、ダイヤモンドにおけるカットの役割は。光をいかにうまく演出するかという事になります。
従って同じダイヤモンドでもその輝き方は一様ではなく、カット(メイク)次第で輝き方は違ってくるという事です。 人が焦ってカットしたものや、より重量を重視したいが為にメイクにこだわらなかった ダイヤモンドはそれなりの輝きをし、よりカットに時間を費やしたダイヤモンドは その労力に答えるかの様に光り輝いています。
生まれた時のダイヤモンド(原石)の大きさ、内容物の有無、色はダイヤモンドの持って生まれたものであるため、 人はどうする事もできませんが、より輝くように導いてあげるのは「人」次第です。
ダイヤモンドもどの様な考え方をもったカッター(カットする人)と出会うかによって運命が変わってしまいます。
ある意味ではダイヤモンドも人も同じかもしれませんね。
<カットする時のポイント>
カッターの事に少し触れましたので、ここではカッターの立場たった考え方、 何を基準にダイヤモンドをカットしていくかという事を説明したいと思います。
まず2つの基本的な目的がカットにはあります。
1.効果的な光の戻り
今までお話したブリリアンシー・ディスパージョン
2.高い歩留まり
原石からより大きなカット石を得ること
以上2つがカッターにとって頭を悩ませるところです。なぜなら、「より効果的な光の戻り」を追求すればするほど、 原石から採れるカット石は小さくなり高い歩留まりは得る事が出来なくなるからです。
ここに2つのダイヤモンド原石(八面体)がありこの二つのダイヤモンド原石は、同じ品質ものであるとします。 従ってこの原石の価値は同じです。
そこで、ある一人のカッターはあまりカットグレードにこだわらず歩留まり重視した カット(A)をしました。
もう一人のカッターはプロポーションにこだわりをもったカット(B)をしました。
さて、ここで出来上がったダイヤモンド(A)は歩留まり重視したカットの為、1,00Ctありました。
一方(B)はカットにこだわるあまり0.9Ctになりました。
出来上がったダイヤモンドは、同じ原石を使ったにもかかわらず(A)の方が重い為、高い値がついてしまいがちです。
(B)の方が技術的にこだわり、時間をかけたにもかかわらずです。
少し矛盾していると思いませんか?この矛盾を正しく評価する意味でもカット評価は価格に大きく反映することが お解かり頂けたと思います。
ダイヤモンドの4C評価において、カットとカラットは実は相反する関係にあったのです。
どちらを重視するか?カットとカラット、ここでもそのバランスが大切な気がします。
ダイヤモンドを見つめながらこのダイヤモンドはどの様な考え方でかっとされていったのか… と考えてみるのも面白いかもしれませんね。
では、ダイヤモンド・グレーディングレポートに記載されている数字を見ながら、 より分かり易く説明したいと思います。